介護現場の人材不足の現状と改善への対策

介護現場の人材不足の現状と改善への対策

内閣府によると、201810月時点での高齢化率は28.1%であり、2036年には33.3%に達し、国民の3人に1人が65歳以上となると予測されています。急激に進む高齢化のなか、介護現場の人材不足が深刻です。国でもさまざまな施策を打ち出していますが、いまだ改善に転じている様子は見えません。介護業界の人材不足の現状とその背景を見ながら、事業者が検討すべき対策について解説します。

介護業界における人材不足の現状

介護現場での人材の不足は、ニュースでもよく取り上げられており認知も高まっています。介護現場の現状について、具体的に見てみましょう。

介護現場の人手不足の状況

2019年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「介護労働実態調査」によると、すでに介護サービス事業所の67.2%が人材の不足感を示しています。この傾向は年々増加しており、今後も人材の確保は厳しさを増していくことが予測されます。

特に問題となっているのが、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年以降です。厚生労働省では2025年における介護人材の需要は約245万人まで上昇すると見ており、予定どおりの人材確保が進まない場合には34万人不足のおそれがあるとしています。

さらに2035年では68万人の不足が見込まれ、有効な手段が打てなければ十分な介護サービスを受けられない高齢者が続出することになります。

なぜ人材が不足しているのか

世界に先がけて超高齢化社会となった日本で、介護需要が高まることは当然の流れですが、なぜこれほどまでに人材が不足しているのでしょうか。

大きな理由となっているのが若年層の入職数の少なさです。

先述した「介護労働実態調査」によると、介護の現場で働く人の年齢割合は60歳以上が21.6%、65 歳以上では12.2%となっています。30歳未満の割合は10代、20代を合計しても10%に届かないことからも、若い世代の参加が非常に少ないことがわかります。

幸いなことに離職率は減少傾向が見られますが、それでも介護現場の人材不足感の解消には至っていないのが現状です。先述したように、介護事業所の多くが人手不足に悩んでおり、人材獲得競争が激化しています。新たな人材の採用は困難をきわめ、現場の業務を圧迫する結果となっています。事業所としても必要な人数が確保できなければ、思うような介護サービスを提供できません。

若年層や未経験者の参入が進まないのは、介護職に対するネガティブなイメージが原因と考えられます。

介護職は、体力を使うことの多い厳しい業務のわりに給与が低いと見られています。年収ベースで介護職員の平均は、300万円台前半といったところです。350万円というデータもありますが、実際にはほとんどの職員がこれを下回っているようです。

また介護施設では、一般的な職場よりも人間関係が複雑です。看護師や理学療法士、ケアマネジャーなど他職種との連携も多く、立場の違いによるあつれきも少なくありません。また、介護施設利用者とその家族、同僚との距離も近いため、人間関係に悩む声も多数聞かれます。

介護の仕事は医療と同様に社会的な貢献度が高く、意義深い職業ですが、そのわりに待遇が良いとはいえず、いわゆる「3K」的な業種という印象が強いと考えられます。介護業務に対する社会的な評価をどう向上させていくかが、介護人材の不足解消につながるポイントといえるでしょう。

介護人材の不足解消に向けた取り組み

ひっ迫する介護人材の不足に対して、現在さまざまな取り組みが行われています。

処遇改善

国では介護人材処遇改善の策として、「月額平均1万円相当の改善」に向けた取り組みを展開してきました。これにより、2019年時点で2009年度からの実績を合計すると月額平均5.7万円の改善となっていることが報告されています。

また勤続年数や資格保有によって、さらに月額8万円の賃金アップをめざしています。10年以上継続して勤務する介護福祉士の賃金を上げることで、業界からの離脱を防止し、キャリアの蓄積を図ります。

収入の向上は介護に従事する人のモチベーションとなり、働きがいを与えます。賃金が安いというイメージを払拭(ふっしょく)できれば、介護業界に興味を持っている若い世代の参加をうながしていけるはずです。

人材育成

介護現場の人材不足を補うためには、これまでよりも幅広い層を対象とすることが必要です。

介護福祉士修学資金貸付、再就職準備金貸付などの支援策を実施し、資格の取得や介護職への就職をサポートする施策も講じられています。

また研修や就職マッチングを介して中高年人材の掘り起こしを行ったり、生活サポーターとして元気な高齢者を活用したりする取り組みも始まっています。

そのなかでも特に人材不足解消について大きな期待が寄せられているのが、外国人労働者の受け入れです。「介護」在留資格の創設とともに、日本の介護国家資格を取得させるために、外国人留学生に対する多角的な支援が実施されています。

新しい技術の導入

介護業務に従事する人の負担を減らすため、新しい技術を導入する動きも増えています。

介護現場でのICT活用としては、タブレットを使って介護記録の記入を簡便化・共有する、介護報酬に関する煩雑な事務作業を軽減するといったことが挙げられます。

またIoT技術による見守りや排せつ予知など、介護にかかわるツールの開発も進行中です。

ロボット技術の活用例としては、移乗時のパワーアシストスーツ着用や電動歩行アシストウォーカーなどがあります。介護者を悩ませている腰痛対策として、大きな効果を発揮しそうです。

メディアによる情報発信

厚生労働省が主体の、介護職の魅力発信事業も行われています。

SNSWebメディア、雑誌、フリーペーパー、新聞、テレビなど、多彩なメディアを駆使して介護職のイメージアップとなる情報を発信していきます。

子育てが終了した主婦層を主なターゲットとし、興味喚起を行いながら、研修への足がかりとなるよう体験の場を提供する取り組みが進められているのです。

事業者が考えるべき人材不足解消への対策

事業者としては人材不足解消をどのように考え、具体的な対策へとつなげていけばよいのでしょうか。

労働環境の整備

人と人の距離が近く、介護従事者の人間力に頼るところが大きい介護の現場では、一般企業と比較すると職場としての制度が不十分であったかもしれません。存続できる事業にするためには、労働環境を整備し、働きやすく希望が持てる職場づくりをしていく必要があります。

介護では介護者ひとりにかかる負担が大きいため、負担を分散させることが大切です。

例えばユニットケアシステムを導入すると、チーム介護の実施によって個人の負担を軽減できます。事業者は、介護の現場に取り入れられそうな職場のシステムを研究し、自社に合わせた手法を探っていく姿勢が求められます。

また、ITの導入も心身にかかる業務負担の軽減に有効です。

働き方の多様性を認め、さまざまな業務スタイルを組み合わせて、個人の事情に合わせたタイムシフトを考えることで、採用の幅も広げられます。

適正な報酬システム

国からの指導・要請もあり、介護従事者の賃金と賞与は年々増加傾向にあります。約7割の事業所が正規職員への賞与を定期的に支給しており、離職の抑止につながっています。

一般企業では貢献度に従った昇給や昇格の制度を用いるところが増えてきていますが、適正な評価はどのような業種でも重要なポイントです。

勤続年数に応じた褒賞(ほうしょう)制度や、事業所独自の評価システムの設定など、働く人のモチベーション対策となるような施策を考えていくことが大切です。

外国人材の受け入れ

人材不足にあえぐ現状を打破するためには、外国人材の受け入れも早急に検討しなければなりません。

先述の介護労働安定センターによる調査では、外国人職員を受け入れている事業所は全体の2.6%にとどまっています。外国人受け入れに対してさまざまな不安を抱く事業者は多いようです。しかし、実際に受け入れを実施している事業所では特に大きな支障はなく、外国人材にポジティブな印象を持っているようです。

コミュニケーションや利用者との意志疎通の面を不安視する声が多く聞かれますが、それよりも職場の活気や労働力の確保といったメリットのほうが上回っているようです。

経済連携協定(インドネシア・フィリピン・ベトナム)によって介護福祉士候補者の受け入れが可能となり、介護業界における外国人材の活用が本格化してきました。

事業所は受け入れに備えて労働環境を整備し、また採用前後に加え、就業中もフォローアップ研修を行うといった万全の体制でのぞむ必要があります。職場に早くとけ込めるように、バディ制度といった独自の工夫をこらすことも大切です。

まとめ:介護人材不足の解消は官民の努力が必要

介護業界の人手不足はすでに深刻な状況で、この先も早期の改善は期待できません。国をあげて人材確保に努めていますが、就業をうながすためには労働条件の改善と介護業のイメージアップが重要です。

事業者側としては、幅広い人材活用が急務です。すでに外国人材を受け入れている事業所のほうが、外国人労働者から選ばれやすい傾向があり、乗り遅れると人材確保の競争に負ける可能性が高くなります。人材の受け入れについては、多様性への意識改革が求められます。早期に着手することが、今後の人材難を克服するカギとなりそうです。

参考: